質量分析イメージングは、分子イメージング技術の一つであり、組織切片上に存在する化合物をイオン化して質量分析装置にて計測し、その分布を画像化する手法です。Imaging Mass Spectrometry(IMS)やMass Spectrometry Imaging(MSI)と呼ばれることもあります。メディフォードでは最新鋭の機器を使用した質量分析イメージングによる各種分析を行います。
質量分析イメージングでは、凍結組織切片上に一定間隔(数十から数百マイクロメートル間隔)でレーザーを当て、その場所に存在するイオンを超高分解能質量分析計で直接検出します。そのため、本測定法では、測定対象化合物への標識が必要ありません。また、複数の化合物を同時に計測可能であるため、測定対象化合物だけでなく、その代謝物やバイオマーカーなども同時に分析できる非常に有用な手法です。レーザー照射間隔を数十から数百マイクロメートル間隔で調整可能なため、眼球組織や腫瘍組織など不均質な組織構造における、微小な局在評価にも適しています。
医薬品開発では、投与薬剤の体内動態や、特定組織や特定組織局所への移行を視覚的に確認できることは、その薬剤の特性を知るうえで非常に重要です。従来、体内分布の評価には放射性標識体(RI)を用いたオートラジオグラフィー法が高精度法として用いられていますが、未変化体と代謝物を分離して検出するには難しい手法です。一方、MSIは未変化体と代謝物を区別して検出することが可能なため、創薬研究においてオートラジオグラフィー法と相補的な活用が望まれる技術です。
光学顕微鏡観察による、HE染色や免疫化学染色画像とマージさせることで、形態学・病理学的特徴とともに化合物の局在を観察でき、化合物のターゲット組織への到達度を確認することもできます。そのため、MSIは薬剤標的組織での薬効確認や、POC(Proof Of Concept)の確認、毒性発現のメカニズム解明などへの活用が期待されます。
測定対象薬剤としては、低分子化合物、核酸医薬品、ペプチド医薬品などが想定されます。また、医薬品分野にとどまらず食品や農薬など、様々な試料や化合物に適用可能であり、応用分野の幅は広く存在します。
イオン化の方法として、当社ではマトリックスレーザー支援脱離イオン化法であるMALDI法を採用しています。
質量分析イメージング装置は、Bruker社のsolariXを導入しています。世界最高レベルの超高分解能な精密質量分析が可能で、目的分子の分子量を精密に検出することが可能です。
MSIを用いてラット眼球内のクロロキンの局在を評価しました。
これまでの研究において、ラットの全身オートラジオグラフィーの結果から、投与されたクロロキンが眼球のブドウ膜(網膜)部分に蓄積することが知られています。また、毒性として網膜の神経線維層の空胞化や色素上皮の肥大・増生が見られます。しかし、それら領域でのクロロキンの詳細な分布については明らかになっていませんでした。
有色ラットにクロロキンを単回経口投与(6, 20, 100 mg/kg)し、投与後翌日に眼球を摘出しました、採取した眼球から凍結切片を作製し、MSI分析として眼球組織の全体分析と高解像度分析を行いました。
各部位のMSI定量値 (µg/g, 平均値)
解析領域 | A:網膜 外層側 | B:網膜 内層側 |
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101 | <LLOQ | <LLOQ |
103 | 12.6 | <LLOQ |
105 | 79.8 | 4.02 |
107 | 271 | 43.9 |
LLOQ : 1 µg/g
組織切片全体の解析だけでなく、任意の領域を高解像度分析することも可能です。
眼球組織のうち、黄枠部分について15 µm間隔でレーザー照射し高解像度分析を行うことで、クロロキンが色素上皮とその外側の脈絡網に主に局在していることが分かりました。